【新説 桃太郎】第十話
前回までの【新説 桃太郎】
「鬼」の蔓延る世界に、桃を媒体に生み出された人造人間である桃太郎。ひょんなことから「犬」と三人の美しい「猿」と訪れた村は…
「おい!犬よ。このだんごはこの工場で作られたっていうのか?」
「あぁ、十中八九間違いないな。」
俺が老夫婦のお手製だと思っていたものが、聞いたこともない奴の作ったものだと聞かされていると…
「おぉ、そこ!五月蝿いぞ!バフェット家の敷地内で何を騒いでおるのだ。」
と、罵声が飛んできた。その声の先を見ると、齢八十を超えている、恰幅の良い老紳士が立って…おらず、何とも小さな成人にも満たない少年が仁王立ちしていた。
「こらこら、口が悪いぞ?そんな言葉遣いは良くないって、お父さんとお母さんに習わなかったの?」
美詠が少年の頭を撫でながら諭した。その動作に少年の顔がみるみる真っ赤になっていった。
「失敬だぞ!私はかの有名な資産家であるバフェット家の三代目、ケビンJr.・バフェットだぞ!お前らこそ、人の敷地に土足で入りおって無礼千万!」
そう一気にまくし立てると、やっと遅れて警備が喋り出す。
「そうだぞ。この工場は坊ちゃんの所有物だ。出て行け!」
「坊ちゃん言うな!」
と、ケビンJr.が一喝入れる。
顎の辺りを手でなぞっていた「犬」がタイミングを見計らって、話し出した。
「これはこれは、かのバフェット家の三代目でしたか。大変失礼致しました。私は、パトラッシュ・ハウンドという医者でして、こちらの者達と共に旅をしています。道中に、大層立派な建物がありましたので、どなたの研究所かと思いまして。警備の方に、お伺いしていたところでした。」
「そうか、少しは口の利き方の分かる奴がいたようじゃな。」
「お褒めに預かり光栄です。して、三代目。こちらはどのような目的の建物で?」
「犬」が核心に迫る。
「あぁ、ここはお祖父様のご命令で不思議な桃のだんごを作っておるのじゃ。」
「桃の?!政府より厳しく規制されているあの桃でですか?」
「そのようだな。しかし、お祖父様のひと声あれば商業利用するのも、いとも簡単な事よ。ただ…あまりの旨さに試食させた者が、もっとくれと言うので増産してから発売するつもりだ。」
ケビンJr.が、自慢気に話していると背後から…
「ダメじゃ!!そのだんごを売るなんてことをしてはいかん!」
と、大きな声がした。