【新説 桃太郎】第八話
前回までの【新説 桃太郎】
「鬼」の蔓延る世界に、桃を媒体に生み出された人造人間である桃太郎。ひょんなことから「犬」と三人の美女との旅が始まる。
「…では、改めまして私は「美詠(みえ)」と申します。御察しの通り、三つ子の長女です。」
「犬」の誘導によって、素直に自己紹介をしている美詠。
「そして、こちらが次女の「喜来(きく)」です。彼女は生まれつき耳が聞こえませんが、その代わり読唇術に長けています。そのため、会話することにおいては何ら問題はありません。」
「悪口とか言っても口の動き見りゃ分かるからな!あと見えてなくても雰囲気で馬鹿にしてるのが分かったら殴るぞ!」
中指を立てこちらに宣戦布告している姿を見ると、三つ子でも全く性格は異なるんだなと瞬時に察した。
「そして、彼女が三女の維字(いう)です。彼女は話すことが出来ません。その代わり、手話による会話や身振り手振りで十分に意思疎通が出来ますので、宜しくお願いします。」
そういう美詠の後ろに隠れて、こちらの様子を伺っている様子から、末っ子であることが見て取れた。
「ありがとう。ん、んん!!それでは、改めて自己紹介をさせてもらおう!俺がこの世界で最も優秀な頭脳の持ち主である…」
阿呆が自己紹介を盛大にやっている。
目の見えない美詠。
耳の聞こえない喜来。
話せない維字。
この三人は、生まれてからお互いの欠けたものを補って生きて来たのだなと、感慨深くなってしまった。古くより語られてきた三猿の伝説が頭をよぎったが、その伝説が俺の前にこんな美しい形で再現されるとはな…熱くなった目頭を太陽の日差しが更に加速させた。
「さて、日が昇ってきたことだし、旅立とうか。」
俺は、数刻前に命の危険に晒されたことで、眠気が吹っ飛んでしまっていた。そのため、夜明けすぐに次の目的地へと向かうことにした。気が付けば、一人で鬼退治へと出陣した時には想像もしなかったが、五人という大所帯になっていた。
「ところで桃太郎。次の目的地はどこなんだ?」
「きびだんごの袋に入っていた紙によると、「雉」と記された場所だ。」
そこは、ここから遠くない村が記されていた。俺はこれから待つ衝撃の事実を知る由もなかった…