【新説 桃太郎】第一話
どうも、やわらかチキンです。
今回は、桃太郎を全然違う側面から表現してみたいと思います。
これは、又吉大先生が本の帯を考えましょう、という企画から着想しています。
【新説 桃太郎】
そう、分かっていた…
俺が桃から生まれた瞬間から決まっていた運命。
「鬼」
という一見すると人の姿をしているが、頭から異形の骨が飛び出した外見。筋骨隆々とした身体と牙を持ち、虎の毛皮を纏った悪の化身と伝えられている。
その言動は横柄で、意にそぐわない人間は食べてしまうという恐ろしい魔物。世界は鬼という生き物の恐怖によって支配されていた暗黒時代であった。
そんな怯えた人間が、古くは中国から伝わったとされる不思議な力を秘めた桃を媒体にして、人造人間を生み出すことに成功した。
そう、それこそ…俺、桃太郎だ。
しかし、その秘密を知る者は少なく、一部の有識者以外に俺の出生は伏せられていた。そして、俺はその秘密を知る数少ない研究員の遠縁にあたる老夫婦の元に預けられることになる。
彼等もかつて鬼ハンターとして名を轟かせたプロフェッショナルだった。
俺はそれが普通だと思っていたが、育ててもらった老夫婦からは日々、鬼を倒すための英才教育を受け続けていた。剣術指南に始まり、鬼の歴史や動物と話す特殊能力の習得などがあった。その甲斐もあり、俺は立派な鬼ハンターへと成長した。
そして、時は流れた。
鬼退治へといざ出陣する朝に老夫婦から
「これを持っていけ」
と、渡されたのが唯一きびだんごであった。
そのきびだんごの袋を開けると中には、
「犬」
「猿」
「雉」
という名前と所在地を示す紙が入っていた。 俺はその意味も分からないまま、ただ必要なことだということを察した。 まず、「犬」と書かれた場所へと足を向けた。
道中はこれまでの訓練を反芻しながら、まだ見ぬ鬼への嫌悪感を噛み締めていた。正直、俺は鬼という物を見た事がない。
しかし、それによって苦しめられてきた人々の思いを老夫婦の作った紙芝居で刷り込まれてきた。その思いを胸に今日まで生きてきたのだ。それは正に俺自身の憎しみとなっていた。
そんなことを考えていると、犬の所在地として書かれている場所へと辿り着いた。
そこは、人里離れた山奥の掘っ建て小屋であった。
「やはり、ただのメモ書きではなかったのだな…」
と、思っている時にその古びた小屋の扉がゆっくりと開いた。
そこに現れたのは…