やわらかチキンの独り言

とろとろ〜ほろほろ〜

【新説 桃太郎】第六話

前回までの【新説 桃太郎】

 

「鬼」の蔓延る世界に、桃を媒体に生み出された人造人間である桃太郎。生みの親と名乗る「犬」との道中。見目麗しい女性が天から降ってきた?!記憶を一時的に失っている彼女を宿まで案内した。その晩、桃太郎の首には刃が…

 

 

 

 

丑三つ時、俺の首には刃が食い込んでいる。そして、腕、脚、口は抑えられている。ピクリも動けない…俺は唯一動く目を月明かりの中凝らした。そこで見たものは…

 

「夜分遅くにすみません。すぐに済みますので」

と、こちらへ微笑みかける美詠であった?!しかし、彼女は笑顔のまま俺の脚をがっちりと固定していた。見た目に反して、物凄い力で動くことは出来ない。俺は口を抑えられているのも忘れて「おい!」と叫ぶ。

 

「動くな。すぐに殺してやる」

そう言って俺の口を抑え、刃を喉仏に移動させている奴が死刑宣告をしてくる。俺は耳を疑った。その声は「美詠」と酷似していた。目を凝らすと、そいつの顔は…「美詠」であった?!?!俺の脳内が混乱している中、腕を掴む奴の鋭い目線が刺さった。

 

?????

その目線を送っていたのは「美詠」であった。彼女は一言も話さず、力強く俺の腕を掴んで離さない。完全に状況が飲み込めない俺を察し、盲目の「美詠」が話し始めた。

 

「覚えてませんか?貴方にとってはたいしたことではなかったということですか…残念です。私達は昔、貴方に父親を殺された者です。」

 

何の話だ?!全く身に覚えがない。

 

「私がまだ幼い頃、妹達がお使いで村まで買い物へ行き、私と父親とで留守番をしていました。家の外で物音がしたので、父親が確認するために戸を開けた瞬間、突然襲われ抵抗することも出来ず殺されました。私はただ怯えて泣いていました。目の見えない私はその時、理由は分かりませんが殺されずに済みました。父親を殺した者の顔は見ることは出来ませんでしたが、"匂い"は鮮明に覚えています。貴方から放たれる独特な"桃の匂い"は忘れることが出来ません。」

 

"桃の匂い"??何の話をしているのか未だに分からない。ただ状況は一切良くなっていない。それだけは分かる。三人の「美詠」にこのままでは濡れ衣によって、殺されてしまう。

 

「どうやら何も覚えていないようですね。「維宇」もう終わらせましょう。「喜来」も良いわね?」

「美詠」の確認に頷く残りの二人。次の瞬間、刃が一瞬首から離れ、反動をつけて振り下ろされた!